私立中高進学通信
2021年9月号
私たち、僕たちが大好きな先生
浦和実業学園中学校
落語と笑いで築く信頼関係が
生徒たちの無限の可能性を拓く
国語科
穴澤 良幸(あなざわ よしゆき)先生
二松学舎大学にて国語科の中・高の教員免許を取得。
1991年からの非常勤講師を経て、1993年に浦和実業学園に教員として勤務。今年で30年目となる。
現在は中高一貫部の教頭を務めるほか、中1の国語の授業を担当している。
特色ある英語教育やキャリア教育に加えて、「心の土壌を耕し、人としての骨格を育てる」=「徳育」を教育の柱とする同校。中高一貫部の穴澤良幸教頭(国語科)に、自信をもって人生を歩む力を養う、落語を通した教育観、生徒たちに伝えたいことを伺いました。
生徒一人ひとりが自分の長所に
気づく授業の仕掛け
「二松亭牛志楼」の高座名をもつ穴澤先生。コロナ禍で楽しみが減った生徒たちを励まそうと、ホームルームで落語を披露することも。――穴澤先生は今年から中高一貫部の教頭に就任したと伺いました。
10年ほど高等学校の教頭をしておりましたが、この4月より中高一貫部の教頭となりました。55歳にして新しいチャレンジができることに感謝をしています。生徒たちは高校生以上にエネルギーに満ちあふれていて、担当する中1国語の授業にも前のめりで臨んでくれています。私も毎日ワクワクしながら学校に通っています。
――教員になられた経緯について教えてください。
大学卒業後に一般企業へと就職しましたが、毎日がルーティーンに感じて私には合いませんでした。その当時、教員として働いていた同級生の話を聞いて「面白く魅力のある仕事だ」と思い、最初は非常勤講師として教育現場に入りました。その直感に間違いはなく、30年経った今でも毎日が楽しくて仕方がありません。
――教員を天職だと感じるのはどんなときですか?
すべてにおいて楽しいのですが、やはり生徒とコミュニケーションしているときです。一人として同じ生徒はいないですし、それぞれに長所や魅力がありますから。ところが中には自分に自信がもてない生徒もいます。特に近年は自己肯定感をもてない生徒が増えていることが気になります。本校の中学入試にはさまざまな形態がありますので、生徒はそれぞれ得意な分野をもっているはずなのです。しかしその点に自分で気づいていないことが多いように思います。そこで中1の2回目の授業では、自分自身とじっくり向き合ってもらう機会を設けました。
――どんなことをされたのですか?
「自分の好きなところ」「変わりたいところ」「先生(私)に対する印象・期待すること」「受験の思い出」を自由形式で書いて提出してもらったのです。みんな本当に一生懸命に書いてくれて、読みながら涙が出る思いでした。特に「受験の思い出」は生徒の記憶に鮮明だったのでしょう。友達と遊べず話題についていけなくなったこと、ときには勉強をサボって罪悪感を抱いてしまったこと、お母さんに怒られたこと──。さまざまなことを乗り越えて本校に入学してくれたのだと、心から生徒たちが愛おしくなりました。
――2回目の授業でそこまで先生に心を開いてくれたのですね。
実は私は落語をライフワークにしていまして、授業にもたびたび取り入れているのですが、今年の中1の初回の授業では『親の顔』という落語を一席設けました。目的は、新しい環境で不安をいっぱいに感じている生徒たちの緊張をほぐすこと。何より “教頭”という私の肩書きに怖気づいてしまうかもしれないと考えたからです。
――生徒たちの反応はいかがでしたか?
これが大成功と言いますか、私自身とても驚かされました。調子に乗って、5月の中間考査終了後に『死神』をやりました。落語を理解するには高い能力が必要です。『死神』は30分の演目なのですが、この長さの話の筋をきちんと追える集中力と、笑えるポイントをつかめる理解力。その日は「みんな本当にすごいよ」と褒め言葉しか出てきませんでした。
大切なのは威厳よりも
安心できる大人であること
「学習は緊張と緩和によって身につく」というスタンスから、授業では常に笑いを意識しているという穴澤先生。生徒たちからはディズニー映画の題名と先生の名前をもじって「アナユキ先生」と親しまれています。――ほかにはどのような形で落語を教育に取り入れているのですか?
古文の授業では落語に仕立てた「伊勢物語」を一席設けてから、本編に入ることもあります。生徒は「古文の文法なんて何の役に立つの?」と疑ってかかるところもありますから、興味をもってもらう仕掛けの1つです。
――落語にはどのような教育効果があるとお考えですか?
人前で何かを発表する、つまりプレゼンテーションの訓練に落語は実に最適です。落語は先人の遺した古典であっても台本はそれぞれの噺家が起こします。そこでいかに相手に伝わる物語に仕立てるか、ここぞというポイントで刺さる言葉を入れるかが重要になります。また基本姿勢は正座ですが、相手を引き付けたいときには身振り・手振りを加えます。そうした落語の手法を生徒たちに話して聞かせることもあります。ただやはり落語の一番の魅力は笑いと、そこから生まれる、心を開いて話ができる良好な人間関係だと思っています。
――笑いを通して生徒たちとの信頼関係が築かれるということでしょうか。
最近の子どもたちの傾向として少し心配なのが、相手を論破することに喜びを感じる生徒が見られることです。生徒間だけでなく、教員に対してもそうした姿勢で挑んでくることもあります。しかし相手が誰であれ、会話の成り立たない人間関係は建設的ではありません。そんなときは「初老だからキツい言葉は傷つくなあ」などと冗談で包んで返したりすることもあります。私はマイナスなことも笑いに変えるスタンスで生徒と接していますので、教頭たる威厳には欠けるかもしれませんが、少なくとも生徒たちは「この人なら大丈夫だ」と安心して心のうちを明かしてくれるのではと期待しています。
――先生はどのようなきっかけで落語を始められたのでしょうか。
遡ると劣等感がすべてのきっかけだったかもしれません。私は運動も勉強もできない生徒でしたが、唯一「頑張ったな」と褒めてくれたのが高校の国語の先生でした。ところが大学では国語ができる学生ばかりで、「自分はそれほどでもないんだ」と落ち込んでしまいました。そこへ落語研究会の先輩が「お前さん、こっちへ来ないかい」と誘ってくれたのです。以来すっかり落語の魅力にとりつかれてしまいました。
――数年前からは社会人落語の寄席も主催されているそうですね。
私は運動や勉強ができなくても「自分には落語がある」と自信をもてるようになりました。また大学時代の同級生と今も深いつながりをもっていることに幸せを感じます。生徒たちにもそういった一生の財産になるものと出会ってほしい。今は残念ながら大人に期待しない子どもが見受けられる時代ですが、生徒たちに大人になることへの希望を見いだしてもらうためにも、私は毎日楽しく笑っていたいのです。
(この記事は『私立中高進学通信2021年9月号』に掲載しました。)
浦和実業学園中学校
〒336-0025 埼玉県さいたま市南区文蔵3-9-1
TEL:048-861-6131
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